〝都市木造〞とCLTでつくる街並み

team Timberize(以下、Timberize)の理事長 腰原幹雄氏(東京大学生産技術研究所教授)、副理事長 安井昇氏(桜設計集団 一級建築士事務所)が、“都市木造”の現在地と今後、およびCLT(Cross Laminated Timber)の可能性について語る。
腰原幹雄 東京大学教授 生産技術研究所
腰原
 Timberizeは2000年の建築基準法改正を受けて発足した研究会です。都市部における中高層木造建築、いわゆる〝都市木造〞を実現するための技術開発・研究などを行っています。実用可能な技術がある程度出そろった'11年にNPO法人化。注目を集めた「下馬の集合住宅」('13年)を世に送り出すなど、〝都市木造〞の旗振り役として一定の役目を果たしてきました。
一級建築士 安井昇
安井
 実際、われわれの活動に呼応するように、〝都市木造〞は少しずつ増えています。ある集成材工場の話によると、以前は補助金頼みの公共事業向けの生産・出荷がほとんどで、繁忙期と閑散期がはっきりしていたようですが、現在では民間事業向けも増加。大断面の構造材を安定的に生産・出荷できる状況にあるとのことです。
腰原幹雄 東京大学教授 生産技術研究所
腰原
ただし、〝都市木造〞がより大きなムーブメントになるためには、まだ高いハードルが存在しています。それは、設計・施工・積算・工程管理などを含めたプロセスの汎用化と、それに対応できる人材育成です。
高度にシステム化され、量産され てきた木造住宅とは異なり、〝都市木造〞は歴史も浅く、多くのプロジェクトが試行錯誤を重ねながら進行しているのが実状。こうした状況を変えるには、実際の現場で生じた問題を丁寧に洗い出して、将来の課題解決につなげていく、という地道な作業が必要不可欠です。

 こうした取り組みに積極的なのが、Timberizeが'18年に連携協定を結んだ高知県。県が主体となり、個々のプロジェクトにおいて︑トライアンドエラーで得られた実用的な知見を集約して情報を公開し、多くの人が共有できるような仕組みづくりを行っています。
一級建築士 安井昇
安井
 高知県は進んでいますよね。CLTによる45分イ準耐火建築物「ST柳町Ⅰ」('16年)など、〝都市木造〞が着実に増えています。〝都市木造〞の設計・施工に関して解説する設計図面集の編へん纂さんも進める予定と聞いていますし、こうした資料がデータベースとして有効活用されれば、より多くの人が〝都市木造〞に新規参入しようとするのではないでしょうか。
 見方を換えれば、〝都市木造〞が増えるには、積極的な情報提供が必要だということ。私は〝木造防耐火〞の専門家として、講演活動や書誌の編集・制作を精力的に行っているのですが、設計者・施工者からの問い合わせに応じて感じるのは、最新技術や法改正の動向について、十分に周知されていないのではないか、という疑念です。最新情報をキャッチアップしさえすれば木造で計画できるのに、RC造やS造になっているケースは少なくありません。汎用化・人材育成と併せて、情報発信も重要な課題の1つといえます。
腰原幹雄 東京大学教授 生産技術研究所
腰原
 最新情報の1つとして注目すべきがCLTでしょう。CLTを万能な夢の材料として語る人もいますが、私としては製材(JAS機械等級区分構造用製材)や集成材、LVL、合板など、ほかの木質材料と同様に適材適所に使い分けていくべき材料だと位置づけています。CLTを上手に使いこなすためには、CLTの材料特性について正しく理解する必要があるでしょう。
一級建築士 安井昇
安井
 私が編集にかかわった『CLT建築物のガイドブック』(愛媛県CLT普及協議会)では、CLTの材料特性を、①最大で幅3m×長さ12mの大判パネルが製作可能であること、②ラミナ(挽き板)が直交して重なるため、ほかの木質材料では難しい2方向への跳ね出しが容易であること、③パネルの厚さを利用して○や□などにくり抜けること、と定義づけています。厚みも十分あるので、木造建築の耐力要素として、〝燃えしろ設計〞の考え方に基づけば、防耐火性能に優れた材料として有用です。
腰原幹雄 東京大学教授 生産技術研究所 腰原
 工法的な観点で補足すれば、繰り返し使うことに適した材料、パネル工法に適した材料といえます。コンビニエンスストアや集合住宅など、比較的単純なプラン、または類似したプランが連続する建築では、施工期間の短縮が期待できるでしょう。こうした材料の特性を踏まえて、Timberizeでは'19年5月、CLTの需要拡大を促すべく、CLTのバス停・バス待合所の設置推進に関する法令整理、および構法パターンの整理、デザイン案を含む提案書を作成し、日本CLT協会を通じて国土交通省に提案しました。CLTの壁柱からCLTの屋根を大きく跳ね出したものなど、4タイプのバス停・バス待合所を提案しています。
一級建築士 安井昇
安井
バス停は大量生産が可能なので、CLTの用途として非常に適していると考えています。CLTのバス停が点在すれば、何かと無機質な街並みに潤いが生まれると想像できますし、CLTの量産効果が期待できるため、他用途での活用にも道が拓けると思います。
腰原幹雄 東京大学教授 生産技術研究所 腰原  私の目標は、〝都市木造〞の街並みをつくること。「国分寺フレーバーライフ社本社ビル」(’17年)のまわりを見渡しても、現状では、RC造やS造が幅を利かせた街並みのなかに、申し訳なさそうに木造が肩身を狭くして存在しているのが実態。すべてを木造に置き換えるのは現実的ではありませんが、木造の建物が適度に点在すると、街の印象はガラッと変わるに違いありません。そのためにも、地道な作業かもしれませんが、汎用的なシステムの構築と人材育成が大切なのです。
一級建築士 安井昇
安井
 〝都市木造〞という概念はTimberizeが、表参道を木造の街並みで描いたCGを用いて10年ほど前に世の中に問いかけたもの。時間はかかりましたが、最近、ようやくその気運が高まってきたと感じています。木質材料の技術開発や建築基準法などの法整備は日進月歩。現状でも高さであれば約30mくらいまでの建物を木造で建てるというのは現実的になってきました。〝都市木造〞はもはや夢物語ではないのです。
対談が行われたのは国分寺市(東京都)にあるスタジオ・クハラ・ヤギ + Timberize設計による「国分寺フレーバーライフ社本社ビル」。国内初の7階建て木質ハイブリッドビルであり、1~4階までが鉄骨造(耐火被覆)による2時間耐火構造、4~7階までがH形鋼を内蔵したカラマツ集成材(鉄骨内蔵型)による1時間耐火構造になっている。アロマオイルを販売する会社のブランドイメージを高めるため、構造・内外装が木質化されている。床材には地元・多摩産材のスギをフローリングとして使用。

(企画協力=全国木材組合連合会 取材協力=国分寺フレーバーライフ社 本社ビル/設計:スタジオ・クハラ・ヤギ + Timberize 写真=平林克己)

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