設計者から見たJAS製材品

木の良さを最大限に引き出す木造建築を手掛け、ウッドデザイン賞を受賞されたご経験のあるアトリエフルカワの一級建築士 古川泰司氏により「JAS構造材」についてご紹介いただきます。

一級建築士 古川 泰司 アトリエフルカワ一級建築士事務所 https://a-furukawa.com/

Vol.1 JAS構造材の理解は木材の理解から

JAS構造材の問題は、個別性の高い生物素材である木材に品質表示という客観的な評価の尺度を与えるというところにあるわけです。それはアナログな木材の性質をどうやってデジタルな表示にしていくのかの問題でもあります。

そしてこの議論は、生物素材所以の個別性の高さをまずは理解しないと何も始まらないわけです。個別性こそ木材の魅力であると思うわけなのですが、一方で建築資材としては品質が明確であることが求められます。JAS規格を知らずに、ただ、木材は個性的だからばらつきがあるのはしょうがない、木材は品質が安定しないからあまり使いたくないという主張をぶつけあうだけでは、本当に魅力的な木造建築はできません。

木材の持つ二の顔、生物資源としての個性的な顔、JASにより品質や性能が表示された建築資材として顔を理解することが今求められているのです。

Vol.2 目視等級と機械等級

構造用のJAS製材には目視等級区分と機械等級区分があります。この違いを理解するのが大変です。設計者は設計図書にJAS材を指定する人はいますが、機械等級区分と目視等級区分の違いを理解して指定できる人はまだまだ少ないのではないでしょうか?

目視等級区分というのは、節の大きさなど外観でその木材の強度まで推し量るというもので、1級から3級まで等級付けされ、それぞれに応じた基準強度が適用されることになります。評価基準として節の大きさなどが重要となっていてとても厳しく定められています。目視等級は等級で節の状況を判断できるのです。

一方、機械等級区分では専用のグレーディングマシンで測定されたヤング係数で区分されます。もちろん節のあるなしも関係ありますが、かなり節の多い材も節のない材も併せて、表示としては実際に測定された等級になります。

Vol.3 見た目と強さ

JAS製材の「目視等級区分」は節のあるなしと節の大きさによってその材料の強さを過去のデータに照らし合わせて推し量る基準です。1級から3級まであって、1級のほうが節が少なく強くて良い材料になります。ですから、目視等級の1級は見た目もきれいな材料になることが多いのです。それに比べて、機械等級区分では、グレーディングマシンで測定した数値で強さを数値化します。ですので、見た目は基本的には問われない。だから節が比較的にあってもE90の強い材料は「機械等級区分」では存在するのです。

見た目と強さが一致するかどうかは検証を続けていくべき問題だと思います。
しかし、一方で、本来大工の棟梁が木材の良し悪しを厳しく判断して使っていたことを考えると目視等級区分もあながち間違った方法ではないのかなと思います。

木材は繊維方向がとても強い。それは繊維がつながっているからだと言う方がいました。その方に言わせると節があるということは繊維方向が乱れてしまうことなので、素材としては弱いのだそうです。まだまだ、木材の強さの秘密は完全には解き明かされてはいないのかもしれません。

Vol.4 節だらけの木を使うためのJAS

目視等級区分で1級を指定するということは節の目立たないものになります。そのために、特に材の寸法が大きかったり長いとその点で調達が一気に難しくなります。手入れが行き届いていて節のない材が潤沢にある地域ならば問題はないかもしれませんが、多くの地域の森林は手入れされている林分は限られていて、大多数が節だらけの材です。木材活用での大きな課題はこの節だらけの材をどうやって使っていくのか、です。節のない木ばかり使っているわけにはいきません。

構造材にJASを指定する場合、目視等級区分ではきれいな材が集まりますが、それだけ調達が困難にもなる。そして、節だらけの材料は使われず残ってしまう。一方、機械等級区分では結構節の多い材も使うことができる。

節が多い木を活かすには機械等級区分のほうが適しているとも言えるのです。

Vo.5 木材の品質は誰の責任?

木の建築の品質の要は木材の品質です。良い木もあれば、そんなに良くない木もある。法隆寺が建てられた大昔から、日本には素晴らしい木造建築があって、そこで使われている木材は確かな品質管理のもと使われていたのは間違いのないこと。その品質管理を誰がやっていたかといえば、それは大工の棟梁です。

私が設計事務所に勤務して仕事を始めた今から30年前くらいには、まだまだ街場の大工さんは数棟分の木材を在庫で持っていて、時々ひっくり返したり並べ替えたりしながら、一本一本の木の癖や、乾き具合、縮んだり曲がったりしていないかを厳しい目でチェックして使っていました。

そうした大工さんは手刻みで加工していたんですが、ところが、今はプレカットの割合が95%を超え、木材は材木屋さんから消え、大工さんも直接木材を買うことがなくなってしまいました。大工の棟梁ならば長年の経験と感でズバリと木の品質を見定めていた。その棟梁への信頼のものとに’木材の品質が保証されていた。しかしそんな棟梁も激減してしまいました。

木材の品質に目を光らせる役目を誰かが担わなくてはいけない。こうした現代の事情からもJASによる品質表示は強く求められているのです。

Vol.6 そもそも、なぜJASなのか?
木材にも品質表示が求められている

そもそも、なぜJASなのでしょうか?

建築設計に関わっていると様々な建築材料の品質について指定し監理することになります。
コンクリートも鉄もそれぞれに品質表示があって厳密に検査されて使われています。
それに比べて木材の品質表示についてはいままでほとんど関心が払われてきませんでした。これは考えてみればおかしなことです。

そもそもを言えば、木造といえば主に住宅でしたからそれを担ってきたのは町場の大工さんで、その大工さんたちが木材を吟味してその品質を自分の名前で保証して使っていたわけです。その流れが未だに続いているのかもしれません。でも木造住宅でも品質の保証を客観性をもって厳密に行うようになってきています。ましてや、住宅の規模を超えて日本の豊富な森林資源の使いみちとして大きな公共的建築も木造で作っていこうといういう流れになっていますから、そうなってくると木材だって当然厳密な品質表示が求められるようになるわけです。

木材を扱う人が大工さんや地域の材木屋さんの手を離れプレカット工場に集約化されるとともに、木材の品質を保証してくれる大工さんは激減しています。木材の品質は大工さんにお任せではうまくことが進まないのです。JASによる品質表示が必要であり、JASによる品質表示が木材の可能性を拓くのです。

Vol.7 JAS材を使うと木を現したデザインができる

中大規模の建築を木造で作ろうという動きが出ています。ただ、建物を木で作るというのではなく木をふんだんに表しで使った「木の建築」を求める声が、特に保育園や小学校など子どもたちのための建物で増えています。

そうした建物では、用途にもよるのですが「内装制限」というのがあって、木の使い方に制限がかかり木をふんだんに見せるデザインが出来ません。梁を見せたいと思っても天井面積の1/12以内という制限がありますし、壁一面に木を張ることも普通にはできません。不燃処理された木材もありますが、まだまだ高価です。

保育園や小学校など子どもたちの場所を作る時に、もっともっと木を見せたデザインをしたい、そう言う要望はとても多いのです。

そこで、燃えしろ設計での準耐火建築にするという選択肢が出てきます。準耐火建築にすることで内装制限が緩和されます。さらに、燃えしろ設計で骨組みの柱や梁もそのまま見せることができるようになります。
木材は1分間に1ミリ燃えるということが実験から分かっています。ですから、火災時の避難に必要な時間分、構造材を大きくしたら安全である、というのが燃えしろ設計です。
子供たちの空間である、保育園や小学校も、燃えしろ設計で、木をふんだんに見せたデザインが可能になります。

そして、燃えしろ設計はJAS機械等級区分製材品を使うということが必須になります。それは、告示でJASに適合した含水率15%、または20%の製材であることが定めれているとともに、木材は乾燥することにより形態安定性が高まる性質を持っているからです。乾燥処理が施されていない木材ですと施工後に乾燥による収縮で耐火性能が落ちる問題がありますが、機械等級区分構造用製材であれば、人工乾燥が施されていますし、乾燥度合いが表示されていますので、安心して使用する事ができるのです。

このようにJAS機械等級区分製材は木の建築の魅力を最大限に引き出してくれるのです。
写真 傍島利浩写真 傍島利浩

特集一覧

木材SCM支援システム もりんく molink木のあるくらし Love Kinohei塀やデッキなど外構を木材でお考えの方へ:外構部の木質化(木塀、木柵等)の支援事業