成長したカラマツを製材で積極活用。地域の需要に応える独特の木造大空間

特集 木材の可能性を拓くJAS構造材(6) 日経 xTECH Special

製材を生かした意匠で魅せる「厚浜(コウヒン)木材加工場」

北海道厚岸町に、地域のカラマツを使った木造の木材加工場が完成した。太く育ったカラマツの丸太から取れる良質なJAS材を活用し、集成材と組み合わせて間口15m、奥行き30mの無柱の大空間をつくった。カラマツ活用のモデルとしてPRできるよう架構のデザインにもこだわった。加工場を建設した厚浜木材加工協同組合の慶伊勝司氏に木材活用のポイントなどを聞いた。
 北海道東部の厚岸町にある厚岸木材工業協同組合の敷地内に、形も規模もそっくりな2棟の木材工場が並んで建っている。どちらも間口15m、奥行き30mほどの木造平屋建て。緩勾配の切妻屋根が載った建物内部には、柱のない大空間の木材工場が広がる。構造材には地元産材のカラマツを使っている。

 2棟は一見して建築年の違いが分かる。木材が経年変化の深みを見せる1棟は1994年に建てられた「厚岸木材集成材工場」だ。大断面集成材を用いたダイナミックな架構が大空間を覆っている。

 一方、隣に建つもう1棟は2019年12月に完成したばかりの「厚浜木材加工場」。建物の形や規模は古い加工場と同様でも、今回、使った木材や構造システムには異なる木材として、前回は構造フレームに使わなかったカラマツ製材を取り入れた。構造システムは、登り梁に集成材を用いた点は同じだが、集成材と製材を組み合わせた張弦梁構造の斬新な架構を考案している。

製材列ごとに接合部をずらして、独特の意匠と構造を考案

 2棟に見られる木材利用や構造システムの違いは、この四半世紀あまりで森林資源が成熟期を迎え、木造建築が大きく進化し始めていることを物語っている。

 「1994年当時は、戦後に植林されたカラマツがまだ十分に育っておらず、中小径の丸太からつくる大断面集成材の使い方をテーマに建てました。しかし、それから20年以上が経ってカラマツが太く育ち、質のよい製材が取れるようになりました。そこで、カラマツ製材のJAS材を活用するモデルとしてつくったのが、今回の新しい加工場です」。加工場を建設した厚浜木材加工協同組合代表理事の慶伊勝司氏はそう説明する。

 さらに、「広くアピールできるよう架構のデザインにもこだわりました」(慶伊氏)という。架構の特徴は、張弦梁構造にひと工夫を加えて、意匠性を高めた点にある。
 まず、建物の短辺方向を見てみると、15mの間口に架かる集成材の登り梁の下に、120mm角の下弦材と束材を設けて張弦梁構造を形づくっている。また、登り梁の両下端は、鉛直の柱材と、建物の外に張り出した方杖につないで剛性を高めている。登り梁は2本組みで、下弦材や束、柱、方杖を両側から挟んで接合する工法を取っている。

 一方、建物の長辺方向は、1.8m間隔で18列並ぶ集成材の登り梁の棟部を、下弦材と束、斜材によるトラスをつくってつないでいる。

 さらに、登り梁の列ごとに、棟部の束の長さや、下弦材や方杖との接点の位置をずらしたりすることで、屋根の架構全体をシェル曲面のような構造としつつ、独特の意匠性を持たせた。例えば、棟部の束の長さは、中央で最も短く、両方の妻面に向かうほど長くなるので、長辺方向に見渡すと、下弦材が緩やかなアーチを描いて連なっている。

 架構を構成する木材は、幅105mm、梁成450mmの登り梁のほか集成材を用いたが、束と斜材は105、120mm角のカラマツのJAS材を用いた。

●ほぼ同規模で建てた新旧2棟の加工場

左下の写真にある建設中の建物が、新しい木材加工場。隣接する古い加工場とほぼ同規模で建てた。撮影は2019年秋。上の写真は19年12月に完成した新しい加工場。右は25年前に建てられた加工場
 
 ●登り梁との接合位置をずらした架構デザイン
①完成後の新しい加工場の内観。間口15m、奥行き30mの無柱空間 ②棟部の束の長さを変えているため、棟下に続く下弦材は緩やかなシェル曲面を描く ③集成材の登り梁2本で、下弦材や柱を挟んで接合。下弦材の接合位置を、登り梁ごとにずらしている ④外観に現れた方杖も、登り梁ごとに接合位置をずらしている

●建築概要/名称:厚浜木材加工場/所在地:北海道厚岸町/設計:三浦建築設計事務所(意匠)、山脇克彦建築構造設計(構造)/施工:厚浜木材加工(協)/構造:木造(在来軸組構法)/階数:地上1階/延べ面積:464.10㎡/竣工:2019年12月
 

製材利用で木工事のコスト減。畜舎や商業施設の展開に期待

 「訴求力のあるカラマツ活用のモデルとなるように、大断面集成材を用いず、できるだけ一般流通材の製材、集成材を使い、接合金物も一部を除いて既製品にしてコストを抑えました」と、慶伊氏は話す。

 2棟の木材工場の木工事コストを比較したところ、新しい加工場は、1994年に建てた工場よりも1㎡当たり3000円ほど安いことが分かったという。木材使用量はほぼ同じだが、部材断面の小さい一般流通材を使用し、特注の接合金物を減らしたことや、加工や組み立ての容易な製材を多く用いたことなどがコスト低減につながった。

 製材と集成材のベストミックスを追求したとも言える新しい加工場の木材利用と構造システムは、様々な用途に展開できそうだという。

 例えば、酪農の盛んな道東エリアで需要の高い畜舎をはじめ、道の駅などの商業施設、そして幼稚園などの子ども施設が挙げられる。「梁成が21cmまでならば、カラマツの丸太から芯去り材を取れるので製材を、それ以上ならば集成材を勧めます。この地域ならではの構造システムとして、今後、積極的にPRしていきたいと考えています」と、慶伊氏は語る。
 
※役職は取材時のものです。



 
 これまでシリーズ全6回にわたり、JAS構造材の長所や特長について多面的に紹介してきました。非住宅分野での活用が本格化する中で、全国木材組合連合会はJAS構造材の啓蒙普及、活用促進に力を入れていきます。

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