2棟に見られる木材利用や構造システムの違いは、この四半世紀あまりで森林資源が成熟期を迎え、木造建築が大きく進化し始めていることを物語っている。 「1994年当時は、戦後に植林されたカラマツがまだ十分に育っておらず、中小径の丸太からつくる大断面集成材の使い方をテーマに建てました。しかし、それから20年以上が経ってカラマツが太く育ち、質のよい製材が取れるようになりました。そこで、カラマツ製材のJAS材を活用するモデルとしてつくったのが、今回の新しい加工場です」。加工場を建設した厚浜木材加工協同組合代表理事の慶伊勝司氏はそう説明する。 さらに、「広くアピールできるよう架構のデザインにもこだわりました」(慶伊氏)という。架構の特徴は、張弦梁構造にひと工夫を加えて、意匠性を高めた点にある。 |
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まず、建物の短辺方向を見てみると、15mの間口に架かる集成材の登り梁の下に、120mm角の下弦材と束材を設けて張弦梁構造を形づくっている。また、登り梁の両下端は、鉛直の柱材と、建物の外に張り出した方杖につないで剛性を高めている。登り梁は2本組みで、下弦材や束、柱、方杖を両側から挟んで接合する工法を取っている。 一方、建物の長辺方向は、1.8m間隔で18列並ぶ集成材の登り梁の棟部を、下弦材と束、斜材によるトラスをつくってつないでいる。 さらに、登り梁の列ごとに、棟部の束の長さや、下弦材や方杖との接点の位置をずらしたりすることで、屋根の架構全体をシェル曲面のような構造としつつ、独特の意匠性を持たせた。例えば、棟部の束の長さは、中央で最も短く、両方の妻面に向かうほど長くなるので、長辺方向に見渡すと、下弦材が緩やかなアーチを描いて連なっている。 架構を構成する木材は、幅105mm、梁成450mmの登り梁のほか集成材を用いたが、束と斜材は105、120mm角のカラマツのJAS材を用いた。 |
左下の写真にある建設中の建物が、新しい木材加工場。隣接する古い加工場とほぼ同規模で建てた。撮影は2019年秋。上の写真は19年12月に完成した新しい加工場。右は25年前に建てられた加工場 |
①完成後の新しい加工場の内観。間口15m、奥行き30mの無柱空間 ②棟部の束の長さを変えているため、棟下に続く下弦材は緩やかなシェル曲面を描く ③集成材の登り梁2本で、下弦材や柱を挟んで接合。下弦材の接合位置を、登り梁ごとにずらしている ④外観に現れた方杖も、登り梁ごとに接合位置をずらしている ●建築概要/名称:厚浜木材加工場/所在地:北海道厚岸町/設計:三浦建築設計事務所(意匠)、山脇克彦建築構造設計(構造)/施工:厚浜木材加工(協)/構造:木造(在来軸組構法)/階数:地上1階/延べ面積:464.10㎡/竣工:2019年12月 |
これまでシリーズ全6回にわたり、JAS構造材の長所や特長について多面的に紹介してきました。非住宅分野での活用が本格化する中で、全国木材組合連合会はJAS構造材の啓蒙普及、活用促進に力を入れていきます。 |
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