名古屋市の東部、整然と区割りされた住宅地の一角で、新しい保育所の建設が最終段階に入っている。広さ約950㎡の敷地に、延べ面積400㎡の木造平屋の建物がまもなく完成する。切妻の大屋根が架かる建物内には、6つの保育室を始め、事務室、厨房などが入る。 建物の設計・施工を手がけるのは、大手ハウスメーカーの三井ホーム。同社は近年、中大規模木造建築の分野にも積極的に取り組み、実績を伸ばしている。 |
「この保育所の構造は、ツーバイフォー工法(木造枠組壁工法)でつくる壁に、CLT(直交集成板)の屋根を載せる構成です。2017年の国土交通省告示により、ツーバイフォー工法の壁にCLTの屋根を載せる場合、簡易な構造計算で設計できるようになり、CLTを使いやすくなりました」。保育所の設計を担当する三井ホームデザイン研究所施設設計部先端木造設計室の川中彰平氏はそう説明する。川中氏が所属する先端木造設計室は、2020年1月に立ち上がったばかりの新しい部署だ。この保育所の設計も、木造の先端的な構造に取り組んでいる。 川中氏が言う告示とは、2017年9月26日に公布・施行された国土交通省告示第867号における「枠組壁工法の床版及び屋根版に直交集成板(CLT)を使用するための基準整備」に係る告示を差す。告示以前は、ツーバイフォー工法でCLTを用いるためには高度な構造計算(限界耐力計算)が必要だった。この告示によって、より簡易な構造計算(許容応力度計算)で、床や屋根にCLTを使うことができるようになった。 |
上は、西側外観のパース。ツーバイフォー工法による壁に、CLTで構成する切妻の大屋根が載る。建物の軒は、屋根のCLTを1.2m持ち出すもの。軒天はCLTの現しとする。下は、内観パース。避難経路に当たらない廊下の一部は屋根のCLTを現しとする(資料:三井ホーム) ●建築概要/所在地:愛知県名古屋市/設計:三井ホーム、三井ホームデザイン研究所/施工:三井ホーム/構造:木造(壁:ツーバイフォー工法、屋根:CLT)/階数:地上1階/敷地面積:950.03㎡/建築面積:395.29㎡/延べ面積:385.22㎡/開所:2020年4月(予定) |
今年1月のCLT建て方工事の様子。ツーバイフォー工法により施工した壁に、屋根となるCLTを吊り込んで架けていった。CLTの標準サイズは幅1.5m、長さ3~4m。岡山県の銘建工業で製作したスギ材のCLTを約60㎥使用した (写真:三井ホーム) |
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建物外周の軒は、屋根のCLTをそのまま1.2m持ち出したもの。軒天には仕上げ材を張らず、現しとする。 CLTの屋根を架け終えた躯体の内観。このあと天井を張るが、一部はCLT現しの勾配天井とする |
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