高知県南西部に位置する四万十町は、2006年に近隣3町村が合併して生まれた。合併前の旧窪川町は、交易の要衝として古くから栄え、今も各所に往時を偲ばせる家並みが残る。なかでも、市街地の南にある四国八十八カ所霊場第37番札所、岩本寺に通じる参道の界隈は、歴史を色濃く感じられる。 |
そんな参道沿いに立つのが2018年末にオープンした「美馬旅館はなれ 木のホテル」だ。参道に面して低く軒を構える木造2階建ての建物に7室の客室が入る。名称にある通り、この宿泊施設は1891年(明治24年)に創業した美馬旅館の“離れ”として建てられた。参道の向かいにある本館は1937年(昭和12年)に完成した伝統木造の地上2階建てで、作家の林芙美子など多くの著名人が投宿してきた歴史と格式を持つ。 新たに建てられた美馬旅館はなれ 木のホテルは、客室ごとに鍵をかけられるホテル形式の宿泊施設だ。 「より多くの人たちに窪川の町で宿泊して欲しいという意図で、ホテル形式の宿泊施設の設計を依頼されました。利用形態はホテルですが、歴史ある街並みと調和するように、軒先や建物のスカイラインを意識しつつ木造で設計しました」と、設計した建築設計群 無垢(高知市)の代表取締役、相坂直彦氏はそう説明する。 |
建物の構造は在来軸組み構法によるものだ。構造材には、地元で伐採されたヒノキのJAS製材を用いた。建物の規模などからすると、必ずしもJAS材を使用する必要はないが、あえて採用したのにはいくつかの理由がある。 その1つは、木材の品質を担保できる点だ。「構造計算をする立場からすると、無等級材を使うよりも、品質の裏付けがあるJAS材を用いるほうが安心です。同じ四万十町内にある製材工場が、機械等級区分などのJAS認証を持っていたこともあり、JAS構造用製材のヒノキを使うことにしました」。構造設計を担当した北添建築研究室(高知市)代表の北添幸誠氏はそう話す。 もう1つの理由は、四万十川流域の自治体が、地元で産出されるヒノキのブランド化を図っている点だ。四万十川流域は古くから良質なヒノキの産地として知られてきた。そのヒノキを地域のブランドとして売り出していくために、四万十町のほか、四万十市と中土佐町、三原村の4市町村が協定を結び、2011年に「四万十ヒノキブランド化推進協議会」を立ち上げ、取り組みを進めていた。 美馬旅館はなれ 木のホテルは、そうした地域の取り組みとも連携した。 「ブランド化の推進には、製材品質の確実性が重要であり、それにはJAS規格が大きな役割を果たします。今回使用したJAS材は大きなコストアップもなく品質が担保されたので、クライアントにも理解してもらえました」と、相坂氏は話す。 |
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